三ヶ尻 正 著

『ミサ曲・ラテン語・教会音楽ハンドブック』

─ ミサとは・歴史・発音・名曲選 ─

はじめに」と「もくじ」紹介
※ 発音記号や特殊文字など一部ウェブ上での表示ができていないところがあります。

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はじめに
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 日本は合唱の盛んな国です。 年末にはベートーヴェンの「第九」が各地で歌われますし、ハレルヤ・コーラスで有名なヘンデルのオラトリオ「メサイア」も定番になっています。
 こうした合唱曲のレパートリーの中で大きな位置を占めているのが「ミサ曲」です。 「第九」や「メサイア」のように、同じ曲を同じ団体が毎年歌うような例はあまり聞きませんが、それでも大きな合唱団では、ある年はベートーヴェンの「荘厳ミサ曲」を、ある年はモーツァルトの「戴冠ミサ曲」を、またある年はバッハの「ロ短調ミサ曲」を歌う、という風に多数の「ミサ曲」を取り上げているところもあります。 個々の曲の演奏回数では到底およばないとしても、「ミサ曲」としてまとめれば、ひょっとすると「第九」や「メサイア」と肩を並べるほどの演奏回数かもしれません。

 ミサ曲のほとんどは「ミサ通常文」(本文13ページ参照)で書かれています。 同じテキストなので、どれか一曲歌っておけば、他の曲を歌うときも歌詞を読んだり覚えたりする手間が省けます。 発音もローマ字的なので、英語やフランス語、ロシア語のような苦労もありません。
 ところで、この「ローマ字的」というところがクセモノです。 たとえば「グローリア」に "Gratias Agimus Tibi"という一節がありますが、[グらーツィアス]なのか[グらーティアス]なのか迷ったことはありませんか? [アヂムス]でしょうか、[アギムス]でしょうか? 「クレド」に "sub Pontio Pilato" とありますが [ポンツィオ]でしょうか、[ポンティオ]でしょうか? "Homo"は[オモ]でしょうか、それとも[ホモ]でしょうか?
 これらは、大きく分けてイタリア式発音・ドイツ式発音・古典式発音の3つの流派に大別できますが(ほかに、イタリア式の中の教会式、フランス式、スペイン式、中世フランドル式など、各地各時代の方式があります)、どれが正しいというのではなく、地域と時代、作曲の背景、そして演奏者の解釈などによって差の出てくる問題です。

 本書では、古今の「ミサ曲」を歌う皆さんのために、ミサとは何か、ミサとミサ曲の歴史、ラテン語の発音など「ミサ曲」にまつわるさまざまな事柄を解説して行きます。 演奏家に とって大きな関心事である「発音」に多くをさ割きましたが、背景となる歴史やキリスト教 の教義にも触れておきました。 きっと作品理解の上で役立つものと思います。
 さらにミサ曲以外のラテン語の教会音楽についても、簡単ではありますが代表的な曲の概要と発音を解説してあります。
 歌の練習により多くの時間を割きたい演奏家や、なかなか歌う時間を工面するのが大変なアマチュアの方々のことを考え、内容はできるだけコンパクトに分かりやすくまとめたつもりです。 「ミサ曲」やラテン語について、より詳しくは、先人のすぐれた著述がいくつもありますので、巻末の参考文献リストなどを参考に読み広げていただければ、と思います。
 なお、お断わりしておかなければなりませんが、著者はキリスト教信者ではありません。 信仰の立場とは違う見方だったり、理解が浅い、あるいは誤っている場合もあるかも知れませんが、教会の外から見ているという立場をご理解の上で読んで頂ければ幸いです。

 本書を通じて、日本で「ミサ曲」を歌う方々の理解が深まり、よりレベルの高い「ミサ曲」の演奏が増えることを願ってやみません。

2001年4月
著 者

 

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もくじ
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は じ め に ──────────────────────

3


◆ 第1部 「ミサ」 と 「ミサ曲」 ◆

 
第1章 「ミサ」とは ────────────────────
8

「最後の晩餐」/イエスの血と体=「ミサ」の意義/「ミサ」の歴史/使徒の時代から「クレド」成立まで/トレント公会議(トリエント公会議)/第2バチカン公会議)/「ミサ」の語源

 
第2章 「ミサ」のかたち ──────────────────
13

「ミサ」の構成〜「シナクシス」と「エウカリスティア」/「ミサ通常文」と「ミサ固有文」/「ミサ」の式次第/カトリックの祝日〜「季節」と「年間」/「ミサ」のいろいろ/ミサを行なうのは司祭=カトリックの聖職者/「ミサ」はいつ行なわれるか/「ミサ」の衣装と聖具/プロテスタントの「ミサ」・他派の礼拝/ミサ通常文全文の対訳/ミサ通常文とその出典

 

コラム(1) 「ミサ」と「聖務日課」 ───────


22
第3章 「ミサ曲」とその歴史 ─────────────────
24

ミサ曲とは
ダイジェスト版 ミサ曲の歴史

 

初期キリスト教と聖歌/グレゴリオ聖歌/多声音楽の教会進出〜ノートルダム楽派/史上初の「通作ミサ曲」:マショー「ノートルダムのミサ曲」/ルネサンス〜ミサ曲の黄金期/デュファイ&オケゲムと「循環ミサ」/ジョスカン・デ・プレと「通模倣」/パレストリーナと「教皇マルチェルスのミサ」/バロック初期のミサ曲/後期バロックのミサ曲/バッハ:ロ短調ミサ曲/古典派のミサ曲〜ハイドン・モーツァルト/ベートーヴェン「荘厳ミサ曲」からロマン派へ/ロマン派のミサ曲/近代・現代のミサ曲〜「今、なぜミサ曲なのか?」

 

これから「ミサ曲」を聞く人のために

82

コラム(2) ミサ曲のさまざまな習慣 ──────

83


◆ 第2部 「ミサ曲」と ラテン語 ◆

 
第4章 「ミサ曲」 と ラテン語 ──────────────────
86

教会とラテン語/ヨーロッパの文化とラテン語/ラテン語の歴史/今も残るラテン語/発音はバラバラに/ラテン語の親戚関係/ラテン語とヨーロッパ諸語の系図/ラテン語の語感を歌う

 

コラム(3) 「ラテン語」は こんな言葉 ──────

94

第5章 「ミサ曲」の発音・ディクション ───────────────

101

どれくらい違うのか?/発音が決める「スタイル」/各時代のミサ曲をどの発音で歌うか?/イタリア式とドイツ式
 ●ラテン語の古典式発音 (106)
 ●ラテン語のイタリア式発音 (111)
 ●ラテン語のドイツ式発音 (120)
   古典・イタリア・ドイツ各方式の対比とまとめ (130)
 ●ミサ通常文全文逐語訳とイタリア式・ドイツ式発音 (133)

 

コラム(4) ミサ曲と典礼の外国語 ─────

144


◆ 第3部 ミサ曲以外の ラテン語教会音楽 ◆
 

第6章 ミサ曲以外の ラテン語の教会音楽 ────────────
148

MAGNIFICAT(151)/AVE MARIA(161)

 

コラム(5) 歌の宝庫 『ルカによる福音書』 ──

166

AVE VERUM CORPUS(168)/REQUIEM(172)/STABAT MATER(174) / TE DEUM(184)/DIXIT DOMINUS(191)/聖母マリア賛歌(4曲) (196)

 


コラム(6) 詩篇について ──────────

202

【参考文献】 ─────────────────────
204

あ と が き ──────────────────────
212

 

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